内容:
著者は県立高校の校長を務め定年退職した人だという。教員社会もなかなかに生存競争の激しいところだと聞くが、その中を生き抜いてかつこの著作を書くだけの自己研鑽を続けたとは、立派な人だと思う。
日本庭園総まとめといった感じで、飛鳥以前から明治までの多くの庭をとりあげている。
感心したのは次の点である。
1.この期間を15もの時代に細分化し、かつその年号を明示した。
曖昧になり易い時代区分を例えば「室町時代末期1493−1573」とはっきり区切り、かつ関係者の生年没年、政治的事件、建物・庭園の建立年を明記している。
このため時代背景が明確になり、庭園の特性である経年変化にあまり影響されない見方を持つことが出来ている。
2.近年の調査、発掘の成果をよく取り入れている。
在野の学者なので、あまり既存の価値観にとらわれず新しい知識を吸収している。
3.印象批評が少ない。
年号の確定、寺の履歴(寺院の庭が多いので)、形態、意匠と押さえていくため庭園の輪郭がよく示され、評者の主観による印象批評は少ない。反面庭めぐりの参考に、と思う人にとっては物足りないかもしれない。
4.図版がシャープである。
各所から多くの図版の提供を受けて豊富に適切に掲示されている。プロの手であらためて図版を加工したのか実にシャープかつ等質の表示になっている。この書の大きな魅力である。
5.植栽への関心が少ない。
水、流れ、石、島、建物に比べ、植栽への関心が少ないのは、移り行くものへの記述が難しいせいであろうが、単なる庭好きには不満であった。
労作である。
|